2007年08月22日
〜「さくらいろのほしぞらのしたで」〜第04話
ななついろ★ドロップス Short Story
〜「さくらいろのほしぞらのしたで」〜
第04話「わらいごえは、そらのかなた」
次の日の夕方。園児も、残り少なくなってきたころ、すももは、鞄からボクを取り出した。
「ユキちゃん」
「ん?」
「わたし、八重野さんに、話しかけてみる。一緒に来てくれる?」
すももは、緊張しているのか、変な力加減でボクを抱き締める。
そんなすももが可愛らしくて、ボクは、「うん」と、微笑み返した。
すももは、気合を入れながら、八重野の方へと体を向け、歩き出そうと、顔を上げる。
すると、例の三人組が、行く手に立ち塞がった。
「あら、嬉しいわ。そのぬいぐるみ、わたくしたちのために、持ってきてくださったのね」
「ほんとに?☆」
「わかってるじゃない♪」
そんな好き勝手なことを言う三人の手が、昨日と同じように、ボクに伸びる。すると、すももは、一歩後ろに下がり、ボクをしっかりと抱き締めた。
空を切る白鳥の小さな手。すももの行動が意外だったのか、三人は、驚きの表情を見せる。しかし、その表情は、少しずつ、怒りの朱へと変わっていった。
「わたくしを辱めるとは……いい度胸ね。秋姫さん……」
「あらあら☆」
「まあまあ♪」
顔色を変える白鳥。すももの腕が、かすかに震えるのがわかった。すると、すももは、昨日、ボクと話した時と同じように、目を閉じて深く息を吸い込んだ。
「……ちょっと、秋姫さん?……ああもう! いいから、そのぬいぐるみを渡しなさい!」
「渡しちゃいなよ☆」
「渡したほうがいいよ♪」
再び、白鳥の手がボクに伸びようとする。
すると、突然、すももが大きな声で言った。
「ごめんなさい! この子、とっても大切なお友達なの!……だから、ごめんなさい!」
すももの拒絶の言葉に、白鳥が、唇を噛む。そんな自分の表情に気付いたのか、白鳥は、気まずそうな顔をすると、一度、下を向く。
「わたくしとしたことが……」
悔しそうに、小さく呟くと、再び上げた顔には、いつもの自信に満ちた歪んだ笑顔が戻っていた。
「ふぅ…………秋姫さん。わたくしが、誰だかご存知かしら?」
「知ってる?☆」
「知らないわけないよね♪」
すももは、不思議そうな顔をしながら答える。
「? 白鳥さん……だよね?」
「そうよ! 白鳥財閥の白鳥さんよ!」
「そうなのよ☆」
「そうなのだ♪」
…………。ボクは、呆れてしばらく固まった。
「??? えっと……それと、ユキちゃんと、どういう関係が……?」
すももも、よくわかっていないようだ。
「キーーーッ! わたくしは、白鳥財閥のお嬢様なの! だから、あなたより、すごいの! 偉いの! 立派なの!!! あなたたち庶民は、わたくしの言うことを、素直に聴いていればいいの! わかって!?」
白鳥は、顔を真っ赤にして捲くし立てた。すももも、勢いに押されてはいるものの、その表情は、恐怖というより、困惑の色の方が強い。
すると、横から静かな声が響き渡った。
「白鳥。あなたの負けよ」
振り返ると、そこには、八重野が立っていた。
「……くっ……八重野撫子……」
白鳥は、苦虫を噛み潰したような表情で、八重野を睨み付けた。
すももの態度が気に入らなかったのだろう。虫の居所が悪いようだ。昨日とは打って変わって、八重野に突っかかる。
「いつもいつもあなたは、わたくしの邪魔ばかり……!!!」
白鳥が、八重野に掴みかかる。八重野は、真正面から、その手を受け止めたが、白鳥の勢いに押され、一歩後ろに下がると、
「……っ!」
八重野が、机からはみ出していた椅子に足を取られ、そのまま後ろに倒れ込んだ。
「あっ!」
「きゃっ!」
ドン!!!
倒れた八重野の上に、白鳥が、圧し掛かるように倒れこんだ。
「ぐっ……」
八重野のくぐもった声が聞こえた。
「八重野さん!」
すももが、叫ぶ。
八重野が、「大丈夫」と言わんばかりに微笑み返そうと、必死に目蓋を抉じ開ける。
しかし、開いた八重野の目蓋に映ったものは、倒れこんでくる机の姿だった。
一つは、白鳥の後頭部に向かって――
そして、もう一つは…………八重野の顔に向かって――
八重野は、咄嗟に、白鳥の頭を両腕で抱きしめる。両手を塞いでしまった八重野は……
ただ、堅く目を閉じた――
ガラガラガッシャーン!!!!!
机の倒れる稲妻のような轟音が、教室中を振るわせる。
「…………っっっ!!!」
皆の声にならない悲鳴が、飲み込まれていく。
モウモウと埃が舞う中、一転して、静寂が訪れた。
「んっ……」
ゆっくりと起き上がったのは…………どうやら、白鳥のようだ。雛鳥のように、きょろきょろと辺りを見渡している。
「ん…………あれ……?」
同時に、八重野も体を起こした。不思議そうな顔をしながら、しきりに、自分の顔と腕を気にしている。
「……なんともない……どうして……?」
よく見ると、八重野たちを、小さな影が包んでいるのが見えた。
その影の主は、誰でもない。ボクを抱いているすももだった。
「八重野さん、白鳥さん、大丈夫?」
「……あっ……はい……」
「……秋姫さん……もしかして、机を?」
よく見ると、倒れた机は、八重野たちから数十センチ離れた所に転がっていた。
「うん。八重野さんと白鳥さんを助けなきゃ……って思ったらね。なんだか、体が動いたの」
ガラガラガラ!
そのとき、教室の扉が勢いよく開いた。机が倒れる音を聞きつけたのだろう。同時に、担任の教師が入ってきた。
「どうしました!?…………っ!」
教師は、教室の惨状を見て、息を呑んだ。その中心に倒れ込む八重野たちの姿を確認すると、こちらに向かって駆け寄ってきた。
「八重野さん、白鳥さん、大丈夫? 怪我はない?」
「あ……はい……」
「特には……」
八重野と白鳥の無事を確認すると、教師は、安堵の溜息を吐いた。同時に、少し、厳しい顔になると、続けて訊ねてきた。
「それで、なにがあったんですか?」
教師の問いに、白鳥の目が泳ぐ。意外と、嘘を吐けないタイプのようだ。
そんな言葉に詰まる白鳥を見て、すももが口を挟んだ。
「先生! えっと……わたしが、転びそうになったんです。そうしたら、八重野さんと白鳥さんが助けてくれて……わたしは、無事だったんですけど、今度は、八重野さんたちが倒れてしまって……それで、机がバタバタと……そうだよね? 八重野さん、白鳥さん」
すももは、しどろもどろになりながら、一生懸命説明すると、八重野たちに同意を求めた。
「あっ!……はい。そうです!」
八重野は、すももの意図を掴んだのか、即座にすももに同意する。すると、教師の視線は、白鳥たちの方へと向く。
「えっと……その通りです。そうよね? 友枝、蘭?」
「そ、その通りです☆」
「ま、間違いありません♪」
白鳥たちも、調子よく、すももたちに合わせる。
すると、教師は、笑顔に戻って、
「そうですか。秋姫さん。気をつけてくださいね。それから、八重野さんと白鳥さんも。お友達想いなのはいいことですが、自分たちが代わりに怪我をしないでくださいね」
そして、そのまま教室を出て行った。
扉が閉まると同時に訪れる束の間の静寂。
ふと、すももが、笑い声を上げ始めた。
「ふふふっ……」
つられて、八重野も笑い出す。
「んくっ……ふふふっ……はははは……」
白鳥たちは、そんな二人の姿を見て、しばらく呆気に取られていたが、やがて、一緒に笑い始めた。
はははははははははははははは
5人の笑い声は、空の彼方へと響いていった。
〜「さくらいろのほしぞらのしたで」〜
第04話「わらいごえは、そらのかなた」
次の日の夕方。園児も、残り少なくなってきたころ、すももは、鞄からボクを取り出した。
「ユキちゃん」
「ん?」
「わたし、八重野さんに、話しかけてみる。一緒に来てくれる?」
すももは、緊張しているのか、変な力加減でボクを抱き締める。
そんなすももが可愛らしくて、ボクは、「うん」と、微笑み返した。
すももは、気合を入れながら、八重野の方へと体を向け、歩き出そうと、顔を上げる。
すると、例の三人組が、行く手に立ち塞がった。
「あら、嬉しいわ。そのぬいぐるみ、わたくしたちのために、持ってきてくださったのね」
「ほんとに?☆」
「わかってるじゃない♪」
そんな好き勝手なことを言う三人の手が、昨日と同じように、ボクに伸びる。すると、すももは、一歩後ろに下がり、ボクをしっかりと抱き締めた。
空を切る白鳥の小さな手。すももの行動が意外だったのか、三人は、驚きの表情を見せる。しかし、その表情は、少しずつ、怒りの朱へと変わっていった。
「わたくしを辱めるとは……いい度胸ね。秋姫さん……」
「あらあら☆」
「まあまあ♪」
顔色を変える白鳥。すももの腕が、かすかに震えるのがわかった。すると、すももは、昨日、ボクと話した時と同じように、目を閉じて深く息を吸い込んだ。
「……ちょっと、秋姫さん?……ああもう! いいから、そのぬいぐるみを渡しなさい!」
「渡しちゃいなよ☆」
「渡したほうがいいよ♪」
再び、白鳥の手がボクに伸びようとする。
すると、突然、すももが大きな声で言った。
「ごめんなさい! この子、とっても大切なお友達なの!……だから、ごめんなさい!」
すももの拒絶の言葉に、白鳥が、唇を噛む。そんな自分の表情に気付いたのか、白鳥は、気まずそうな顔をすると、一度、下を向く。
「わたくしとしたことが……」
悔しそうに、小さく呟くと、再び上げた顔には、いつもの自信に満ちた歪んだ笑顔が戻っていた。
「ふぅ…………秋姫さん。わたくしが、誰だかご存知かしら?」
「知ってる?☆」
「知らないわけないよね♪」
すももは、不思議そうな顔をしながら答える。
「? 白鳥さん……だよね?」
「そうよ! 白鳥財閥の白鳥さんよ!」
「そうなのよ☆」
「そうなのだ♪」
…………。ボクは、呆れてしばらく固まった。
「??? えっと……それと、ユキちゃんと、どういう関係が……?」
すももも、よくわかっていないようだ。
「キーーーッ! わたくしは、白鳥財閥のお嬢様なの! だから、あなたより、すごいの! 偉いの! 立派なの!!! あなたたち庶民は、わたくしの言うことを、素直に聴いていればいいの! わかって!?」
白鳥は、顔を真っ赤にして捲くし立てた。すももも、勢いに押されてはいるものの、その表情は、恐怖というより、困惑の色の方が強い。
すると、横から静かな声が響き渡った。
「白鳥。あなたの負けよ」
振り返ると、そこには、八重野が立っていた。
「……くっ……八重野撫子……」
白鳥は、苦虫を噛み潰したような表情で、八重野を睨み付けた。
すももの態度が気に入らなかったのだろう。虫の居所が悪いようだ。昨日とは打って変わって、八重野に突っかかる。
「いつもいつもあなたは、わたくしの邪魔ばかり……!!!」
白鳥が、八重野に掴みかかる。八重野は、真正面から、その手を受け止めたが、白鳥の勢いに押され、一歩後ろに下がると、
「……っ!」
八重野が、机からはみ出していた椅子に足を取られ、そのまま後ろに倒れ込んだ。
「あっ!」
「きゃっ!」
ドン!!!
倒れた八重野の上に、白鳥が、圧し掛かるように倒れこんだ。
「ぐっ……」
八重野のくぐもった声が聞こえた。
「八重野さん!」
すももが、叫ぶ。
八重野が、「大丈夫」と言わんばかりに微笑み返そうと、必死に目蓋を抉じ開ける。
しかし、開いた八重野の目蓋に映ったものは、倒れこんでくる机の姿だった。
一つは、白鳥の後頭部に向かって――
そして、もう一つは…………八重野の顔に向かって――
八重野は、咄嗟に、白鳥の頭を両腕で抱きしめる。両手を塞いでしまった八重野は……
ただ、堅く目を閉じた――
ガラガラガッシャーン!!!!!
机の倒れる稲妻のような轟音が、教室中を振るわせる。
「…………っっっ!!!」
皆の声にならない悲鳴が、飲み込まれていく。
モウモウと埃が舞う中、一転して、静寂が訪れた。
「んっ……」
ゆっくりと起き上がったのは…………どうやら、白鳥のようだ。雛鳥のように、きょろきょろと辺りを見渡している。
「ん…………あれ……?」
同時に、八重野も体を起こした。不思議そうな顔をしながら、しきりに、自分の顔と腕を気にしている。
「……なんともない……どうして……?」
よく見ると、八重野たちを、小さな影が包んでいるのが見えた。
その影の主は、誰でもない。ボクを抱いているすももだった。
「八重野さん、白鳥さん、大丈夫?」
「……あっ……はい……」
「……秋姫さん……もしかして、机を?」
よく見ると、倒れた机は、八重野たちから数十センチ離れた所に転がっていた。
「うん。八重野さんと白鳥さんを助けなきゃ……って思ったらね。なんだか、体が動いたの」
ガラガラガラ!
そのとき、教室の扉が勢いよく開いた。机が倒れる音を聞きつけたのだろう。同時に、担任の教師が入ってきた。
「どうしました!?…………っ!」
教師は、教室の惨状を見て、息を呑んだ。その中心に倒れ込む八重野たちの姿を確認すると、こちらに向かって駆け寄ってきた。
「八重野さん、白鳥さん、大丈夫? 怪我はない?」
「あ……はい……」
「特には……」
八重野と白鳥の無事を確認すると、教師は、安堵の溜息を吐いた。同時に、少し、厳しい顔になると、続けて訊ねてきた。
「それで、なにがあったんですか?」
教師の問いに、白鳥の目が泳ぐ。意外と、嘘を吐けないタイプのようだ。
そんな言葉に詰まる白鳥を見て、すももが口を挟んだ。
「先生! えっと……わたしが、転びそうになったんです。そうしたら、八重野さんと白鳥さんが助けてくれて……わたしは、無事だったんですけど、今度は、八重野さんたちが倒れてしまって……それで、机がバタバタと……そうだよね? 八重野さん、白鳥さん」
すももは、しどろもどろになりながら、一生懸命説明すると、八重野たちに同意を求めた。
「あっ!……はい。そうです!」
八重野は、すももの意図を掴んだのか、即座にすももに同意する。すると、教師の視線は、白鳥たちの方へと向く。
「えっと……その通りです。そうよね? 友枝、蘭?」
「そ、その通りです☆」
「ま、間違いありません♪」
白鳥たちも、調子よく、すももたちに合わせる。
すると、教師は、笑顔に戻って、
「そうですか。秋姫さん。気をつけてくださいね。それから、八重野さんと白鳥さんも。お友達想いなのはいいことですが、自分たちが代わりに怪我をしないでくださいね」
そして、そのまま教室を出て行った。
扉が閉まると同時に訪れる束の間の静寂。
ふと、すももが、笑い声を上げ始めた。
「ふふふっ……」
つられて、八重野も笑い出す。
「んくっ……ふふふっ……はははは……」
白鳥たちは、そんな二人の姿を見て、しばらく呆気に取られていたが、やがて、一緒に笑い始めた。
はははははははははははははは
5人の笑い声は、空の彼方へと響いていった。
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目次
ななついろ★ドロップス 短編
〜「さくらいろのほしぞらのしたで」〜
・「プロローグ」
・第01回「ずっといっしょ……」
・第02回「そのであいは、ゆうきのはじまり」
・第03回「なでしこのことば」
・第04回「わらいごえは、そらのかなた」
・第05回「ふたりのてのひら」
・第06回「ボクがきえるひ」
・第07回「にびいろのしずく」
・第08回「せいしろうとぼく」
・第09回「さくらいろのほしぞらのしたで」
・「エピローグ」
・あとがき
冗談企画
〜「オー!ユッキー」〜
・「オー!ユッキー その3」
・「オー!ユッキー その2」
・「オー!ユッキー その1」
ななついろ★ドロップス Short Story
〜「ユキちゃんの一日」〜
・「ユキちゃんの一日」
・「ユキちゃんの一日 その2」
・「ユキちゃんの一日 その3」
・「ユキちゃんの一日 その4」
・「ユキちゃんの一日 その5」
・「ユキちゃんの一日 その6」
ななついろ★ドロップス 短編
〜第5.5話「キミにむけるほほえみ」〜
・はじめに
・第01回「はじまり」
・第02回「たいへんたいへん」
・第03回「すもものムチャ」
・第04回「ふたりといっぴき」
・第05回「ほしのはな」
・第06回「すもものなみだ」
・第07回「りべんじ」
・第08回「ここはどこ?」
・第09回「ほしぞらのしたで……」
・第10回「さかないの?」
・第11回「みんなのねがい」
・最終回「キミにむけるほほえみ」
・あとがき
