2007年06月03日
第09回「ほしぞらのしたで……」
ななついろ★ドロップス Short Story
〜第5.5話「キミにむけるほほえみ」〜
第09回 「ほしぞらのしたで……」
次の日の朝、昨日の少年が病室を訪れたのは、まだ、朝日の香りが残る、冷たい空気が立ち込める時間だった。昨日の発作の話を聞いたのか、少年は、ノックもせずに病室に飛び込んできた。少女は、深い眠りに就いているのか、勢いよく開いたドアの音に気付くことなく、眠り続けている。昨晩の薬が抜けていないのかもしれない。
少年は、少女が寝ていることに気付くと、そっと近づいて顔を覗き込んだ。静かに寝息を立てる少女の様子に安心したのか、少年は、安堵の表情を浮かべる。少年は、目を閉じて少女の手を握り、ホッと溜め息を漏らした。
……よし、今だ!
俺は、窓から吹き込む風にまぎれて、用意しておいたメモを、音を立てて床に落とした。
「……?」
落ちたメモに気付いた少年は、それを拾い上げる。
「何だ、これ?」
少年は、メモを拾い、読み始める。そのメモには、たったの一行。
『今夜、私をあの高台に連れて行ってください』
それだけが書かれていた。
『星の花★大作戦!〜手紙で咲かせる愛の花〜』(命名:秋姫すもも) 任務……完了―
……この作戦名、微妙に語呂が悪いかもしれない。
――――――――――
その後、少年は、少女の目覚めを待ち、少し話し込んだ後、「それじゃあ、今晩また来るから」と言葉を残して病室を後にした。
少女は、「また来る」という少年の言葉に、少し不思議そうな顔をしていたが、やはり嬉しいのか、笑顔で見送った。
――――――――――
夜になった。今日は、急患も無いのか、病院全体がひっそりと静まり返っている。窓の外には、薄暗い雲がかかっているものの、美しい星空が広がっている。
コンコン
控えめなノックの音が聞こえると、少年が入ってくる。少女は、少し眠いのか、微笑を浮かべつつも、うとうとしている。
「眠たい?」
少年の問いに、首を振る少女。
「それじゃあ、行こうか」
そういうと、少年は少女に背中を向ける。少女は、抱きつくように飛び乗った。
「おっと!」
少年は、少しバランスを崩したが、すぐに立て直す。
「よし。しっかり掴まってるんだぞ」
少年は、少女を背負ったまま、そっと扉を開ける。廊下に誰もいないことを確認すると、始めの一歩を踏み出した。目指すは、窓から見えるあの高台だ。
俺と秋姫も、すぐに後を追い始めた。
――――――――――
少年は、高台への道を辿る。空を指差しながら少女に話しかけているようだ。星の話でもしているのだろうか?
ふと、少年が立ち止まる。右へ行くか、左へ行くか迷っているようだ。
すると、秋姫の指輪が光り出す。
「あ……」
この世界でも、指輪の力は有効らしい。
空にかかる光の線路は、左の道を辿り、目指す高台へと続いている。少年たちにも見えるのか、左の道を歩いていくことに決めたようだ。
しばらく歩くと、上り坂に差し掛かる。ここから高台まで一直線。しかし、少女を背負ってここまで歩いてきた少年には厳しいのか、足を止めて行く先を見つめている。
立ち止まる少年に、少女が、頬を摺り寄せる。少年は、少し戸惑いつつも、優しくそれを受け入れた。しばし寄り添う二人の影。やがて、どちらからともなく、口唇と口唇が触れ合った―
俺と秋姫は、慌てて目を逸らす。秋姫の頬が真っ赤に染まっている。自分たちがしているわけでもないのに、なんだか気恥ずかしい。
「ユキちゃん」
「っ! ん……な、なに? すもも」
名前を呼ばれた俺は、意味もなく慌ててしまう。
「あ……うん……あのね」
うつむく秋姫の姿に、胸が高鳴る。
「星の花。絶対に咲かせようね!」
「え?……あ……うん!」
秋姫の言葉に、体全体から力が抜ける。俺は、何故だか物足りなり気持ちになり、溜め息を吐く。
ふと、少年たちに視線を戻すと、少年が、少女を背中から降ろそうとしていた。
少女が地面を踏みしめる。少年から手を離し、歩き出そうとする少女。小石に足を取られたか、少女の体が傾く。咄嗟に、少女の肩を抱きしめ、支える少年。
二人は、微笑み合うと、手と手を繋いで歩き出した。少女は、少年に寄りかかるように歩く。少年たちは、ゆっくりと高台への道を進む。幸福への道と信じて、一歩一歩、歩み続ける。
やがて、目的地が見えてきた。
そこに浮かぶ虹のしずくは、二人の到着を歓迎するかのように、虹のゲートを作り出した。
二人は、それを潜り抜けると、展望台の中心へと足を進める。二人の前で、虹のしずくが動きを止める。
少女は、星の種が入ったビンを地面に置くと、両手を合わせる。少年も、それに倣い、手を合わせた。
「すもも」
「うん」
秋姫は、虹のしずくを挟んで、少年たちの前に舞い降りる。虹のしずくは、すくわれるのを待つかのように、身動き一つすることはない。指輪からレードルを取り出し、虹のしずくに向けると、秋姫の言葉が、虹のかかる星空にこだまする。
プルヴ・ラディ
虹のしずくがレードルに吸い寄せられる。秋姫は、すくったしずくを、そっとビンの中に注ぎ込む。虹のしずくで満たされた星の種が光を帯び始める。瞬く間に、根を張り、茎を伸ばし、一厘の蕾を付ける。
星の花が、その花を咲かせようとしている。
四人が同時に息を呑む。
星の花が―
〜第5.5話「キミにむけるほほえみ」〜
第09回 「ほしぞらのしたで……」
次の日の朝、昨日の少年が病室を訪れたのは、まだ、朝日の香りが残る、冷たい空気が立ち込める時間だった。昨日の発作の話を聞いたのか、少年は、ノックもせずに病室に飛び込んできた。少女は、深い眠りに就いているのか、勢いよく開いたドアの音に気付くことなく、眠り続けている。昨晩の薬が抜けていないのかもしれない。
少年は、少女が寝ていることに気付くと、そっと近づいて顔を覗き込んだ。静かに寝息を立てる少女の様子に安心したのか、少年は、安堵の表情を浮かべる。少年は、目を閉じて少女の手を握り、ホッと溜め息を漏らした。
……よし、今だ!
俺は、窓から吹き込む風にまぎれて、用意しておいたメモを、音を立てて床に落とした。
「……?」
落ちたメモに気付いた少年は、それを拾い上げる。
「何だ、これ?」
少年は、メモを拾い、読み始める。そのメモには、たったの一行。
『今夜、私をあの高台に連れて行ってください』
それだけが書かれていた。
『星の花★大作戦!〜手紙で咲かせる愛の花〜』(命名:秋姫すもも) 任務……完了―
……この作戦名、微妙に語呂が悪いかもしれない。
――――――――――
その後、少年は、少女の目覚めを待ち、少し話し込んだ後、「それじゃあ、今晩また来るから」と言葉を残して病室を後にした。
少女は、「また来る」という少年の言葉に、少し不思議そうな顔をしていたが、やはり嬉しいのか、笑顔で見送った。
――――――――――
夜になった。今日は、急患も無いのか、病院全体がひっそりと静まり返っている。窓の外には、薄暗い雲がかかっているものの、美しい星空が広がっている。
コンコン
控えめなノックの音が聞こえると、少年が入ってくる。少女は、少し眠いのか、微笑を浮かべつつも、うとうとしている。
「眠たい?」
少年の問いに、首を振る少女。
「それじゃあ、行こうか」
そういうと、少年は少女に背中を向ける。少女は、抱きつくように飛び乗った。
「おっと!」
少年は、少しバランスを崩したが、すぐに立て直す。
「よし。しっかり掴まってるんだぞ」
少年は、少女を背負ったまま、そっと扉を開ける。廊下に誰もいないことを確認すると、始めの一歩を踏み出した。目指すは、窓から見えるあの高台だ。
俺と秋姫も、すぐに後を追い始めた。
――――――――――
少年は、高台への道を辿る。空を指差しながら少女に話しかけているようだ。星の話でもしているのだろうか?
ふと、少年が立ち止まる。右へ行くか、左へ行くか迷っているようだ。
すると、秋姫の指輪が光り出す。
「あ……」
この世界でも、指輪の力は有効らしい。
空にかかる光の線路は、左の道を辿り、目指す高台へと続いている。少年たちにも見えるのか、左の道を歩いていくことに決めたようだ。
しばらく歩くと、上り坂に差し掛かる。ここから高台まで一直線。しかし、少女を背負ってここまで歩いてきた少年には厳しいのか、足を止めて行く先を見つめている。
立ち止まる少年に、少女が、頬を摺り寄せる。少年は、少し戸惑いつつも、優しくそれを受け入れた。しばし寄り添う二人の影。やがて、どちらからともなく、口唇と口唇が触れ合った―
俺と秋姫は、慌てて目を逸らす。秋姫の頬が真っ赤に染まっている。自分たちがしているわけでもないのに、なんだか気恥ずかしい。
「ユキちゃん」
「っ! ん……な、なに? すもも」
名前を呼ばれた俺は、意味もなく慌ててしまう。
「あ……うん……あのね」
うつむく秋姫の姿に、胸が高鳴る。
「星の花。絶対に咲かせようね!」
「え?……あ……うん!」
秋姫の言葉に、体全体から力が抜ける。俺は、何故だか物足りなり気持ちになり、溜め息を吐く。
ふと、少年たちに視線を戻すと、少年が、少女を背中から降ろそうとしていた。
少女が地面を踏みしめる。少年から手を離し、歩き出そうとする少女。小石に足を取られたか、少女の体が傾く。咄嗟に、少女の肩を抱きしめ、支える少年。
二人は、微笑み合うと、手と手を繋いで歩き出した。少女は、少年に寄りかかるように歩く。少年たちは、ゆっくりと高台への道を進む。幸福への道と信じて、一歩一歩、歩み続ける。
やがて、目的地が見えてきた。
そこに浮かぶ虹のしずくは、二人の到着を歓迎するかのように、虹のゲートを作り出した。
二人は、それを潜り抜けると、展望台の中心へと足を進める。二人の前で、虹のしずくが動きを止める。
少女は、星の種が入ったビンを地面に置くと、両手を合わせる。少年も、それに倣い、手を合わせた。
「すもも」
「うん」
秋姫は、虹のしずくを挟んで、少年たちの前に舞い降りる。虹のしずくは、すくわれるのを待つかのように、身動き一つすることはない。指輪からレードルを取り出し、虹のしずくに向けると、秋姫の言葉が、虹のかかる星空にこだまする。
プルヴ・ラディ
虹のしずくがレードルに吸い寄せられる。秋姫は、すくったしずくを、そっとビンの中に注ぎ込む。虹のしずくで満たされた星の種が光を帯び始める。瞬く間に、根を張り、茎を伸ばし、一厘の蕾を付ける。
星の花が、その花を咲かせようとしている。
四人が同時に息を呑む。
星の花が―
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目次
ななついろ★ドロップス 短編
〜「さくらいろのほしぞらのしたで」〜
・「プロローグ」
・第01回「ずっといっしょ……」
・第02回「そのであいは、ゆうきのはじまり」
・第03回「なでしこのことば」
・第04回「わらいごえは、そらのかなた」
・第05回「ふたりのてのひら」
・第06回「ボクがきえるひ」
・第07回「にびいろのしずく」
・第08回「せいしろうとぼく」
・第09回「さくらいろのほしぞらのしたで」
・「エピローグ」
・あとがき
冗談企画
〜「オー!ユッキー」〜
・「オー!ユッキー その3」
・「オー!ユッキー その2」
・「オー!ユッキー その1」
ななついろ★ドロップス Short Story
〜「ユキちゃんの一日」〜
・「ユキちゃんの一日」
・「ユキちゃんの一日 その2」
・「ユキちゃんの一日 その3」
・「ユキちゃんの一日 その4」
・「ユキちゃんの一日 その5」
・「ユキちゃんの一日 その6」
ななついろ★ドロップス 短編
〜第5.5話「キミにむけるほほえみ」〜
・はじめに
・第01回「はじまり」
・第02回「たいへんたいへん」
・第03回「すもものムチャ」
・第04回「ふたりといっぴき」
・第05回「ほしのはな」
・第06回「すもものなみだ」
・第07回「りべんじ」
・第08回「ここはどこ?」
・第09回「ほしぞらのしたで……」
・第10回「さかないの?」
・第11回「みんなのねがい」
・最終回「キミにむけるほほえみ」
・あとがき
