2007年06月03日
第08回「ここはどこ?」
ななついろ★ドロップス Short Story
〜第5.5話「キミにむけるほほえみ」〜
第08回 「ここはどこ?」
気が付くと、誰かの腕の中にいた。俺を抱えるその腕は、秋姫の手の平よりも大きく、秋姫の腕よりも力強い。
(あれ? 秋姫じゃない?)
そっと、見上げると、俺を抱えているのは、中学生くらいの少年だった。真っ白なTシャツに野球帽を被っている。少し日に焼けた肌が健康的だ。
俺を抱えた少年は、どこかに向かって走り続ける。少年は、速度を落すことなく、風とともに走り抜けていく。
(ところで、何で俺はこの男の子に抱かれているんだろう?)
自問してみるが、わかるはずもない。
(仕様がない。しばらく大人しくしてるか……)
俺は、諦めて力を抜くことにした。
しばらく走ると、少年が速度を落とす。目線だけ動かすと、大きな建物が見えた。
(ここは……さっきの病院?)
少年は、息を整えると、足早に中へと入っていった。
――――――――――
少年は、迷うことなく歩き続ける。かなり奥の方まで歩いてきた。心なしか、廊下の雰囲気が変わってきたような気がする。なんだか、空気が重たく感じられる。
ふと、少年が立ち止まる。
コンコン
静まり返った廊下に、ノックの音が響き渡る。中からの返事は無い。
「入るよ?」
そういうと、少年は、返事を待たずにドアを開けて中に入る。
扉を開けると、ベッドから体を起こしてこちらの様子を窺う少女の姿が見えた。少年よりは年下だろうか? ベッドにまで届く長く癖のない黒髪が美しい。
少年の姿に、少女は儚げな微笑を浮かべる。ふと、ベッドの横に目を向けると、少女の姉だろうか。もう一人、少女の姿が見える。
(……って)
「すもも!?」と叫びそうになるのを、寸での所で抑えた。しかし、
「ユキちゃん!?」
秋姫は、思いっきり叫んでいた。
しかし、少年は、何も聞こえなかったかのように、少女のそばへと歩いていく。
「あのね。今日は、プレゼントがあるんだ」
と、少年は、俺を差し出した。
(……!!)×2
どうやら俺は、この少女へのプレゼントつもりで拾われたらしい。少女は、俺を受け取ると、不思議そうな顔をして、じーーーっと俺の瞳を見つめ始める。
(ヤバッ! バレる!)
俺は、冷や汗をかきながらも、ぬいぐるみのふりをする。
「それ、さっき、UFOキャッチャーで取ったんだ。気に入って貰えたかな?」
気を失っている間、俺は、UFOキャッチャーの景品だったらしい。俺の身に、何があったのだろう?
少女は、「気のせいかな?」という顔をすると、俺を枕元に座らせた。少女は、微笑みながら少年に頭を下げる。どうやら、気に入られたらしい。
そんな少女の微笑みに、少年は、ホッと溜め息を吐く。気に入って貰えるか、心配だったのだろう。
「あ! それから、もう一つ……」
少年は、思い出したようにポケットを探ると、小さなビンを取り出した。ビンの中に、何か見える。小さくてハッキリとはわからないが、星の形をしているようだ。
「これはね。『星の種』っていうんだって」
(ユキちゃん!)
(うん……)
星の種という言葉に、俺と秋姫が顔を見合わせる。
「星の種はね。たくさんの星の下で、花を咲かせるんだって。それでね。その花が咲いた時、一つだけ願いを叶えてくれるんだって」
少年は、窓の外を指差しながら、少女に話しかける。少年の指差す方向に目を向けると、高台のある、あの丘が見えた。どうやら、『星が見える丘』とは、あの高台のことらしい。
「だからね。今度二人で、あの高台に行こう。そこに種を植えて、花を咲かせよう。そして、病気が治るように、お願いしよう……」
少女は、種の入ったビンを受け取ると、少年の言葉に頷いた。
少年は、その後も、しばらくの間、少女に話しかけ続けた。日が暮れる頃になると、「それじゃあ」と病室を後にした。
少年の居なくなった病室で、少女は、種の入ったビンを眺め続ける。その表情に宿るのは、微笑みと諦めだった。
――――――――――
少女が寝静まったのを確認すると、俺は、思いっきり伸びをした。長時間ぬいぐるみのふりを続けるのは、かなり辛い。
体がほぐれてきたところで、しばらくどこかに行っていた秋姫に小声で話しかけた。
(すもも。どこに行ってたの?)
「うん。ユキちゃんは、みんなに見えるみたいだけど、わたしは違うみたいだったから、少し確かめてきたの」
突然、秋姫が俺の頭を撫で始める。
(??? どうしたの? すもも)
「ユキちゃんは、触れるんだ……あのね。わたし、この世界のものに、触ることが出来ないみたいなの。壁も通れるし……声も聞こえないみたい」
そういえば、病室に入ってきたとき、秋姫の声は、少年と少女に聞こえていないようだった。
「でも、ユキちゃんは触れるし、わたしの声も聞こえてるよね?」
(うん。ボクには見えてるよ)
秋姫は、安心したのか、胸をなでおろす。
しかし、問題は山積みだ。虹のしずくの光に飲み込まれて辿り着いたこの世界。一見、元いた世界と変わらないが、元の世界だとすると、秋姫が幽霊のようになっていることに理由が付かない。
やはり、こんな時には……
(ねぇ、すもも。如月先生はいた?)
「うん。学園中探してみたんだけど……いないみたいだった」
(そう……どこか出張にでも行ってるのかな?)
「ううん。如月先生の部屋に行ったら、知らない先生がいたの。だから、この世界に如月先生は、いないんじゃないかな?」
(ちなみに、ナコちゃんと結城は?)
「うん。やっぱり、いないみたいだった。教室を見てみたけど、深道さんも小岩井さんも雨森さんも桜庭くんも麻宮くんたちも、みんな……」
ということは、ここは、元の世界のようで、元の世界じゃないってことか……
「ねえ。ユキちゃん」
(ん?)
「わたしたちがこの世界に来たのって、さっきの種を育てるお手伝いをするためなんじゃないかな?」
(っ!?)
そうか。星の花を咲かせるには、虹のしずくが必要だ。今、それが出来るのは、秋姫だけだ。
(うん。きっとそうだ!)
俺たちがやらなければならないことが見えてきた。
その時、突然、少女の顔が苦痛に歪む。少女の腕が、自分の胸を強く締め付けている。
物音を聞きつけたのか、看護師が病室に入ってくる。少女の様子に、すぐに医師を呼び始める。医師が駆けつけると、少女の異常な様子に苦い顔をする。
「鎮静剤を……」
「はい!」
少女の体には大きすぎる注射の針が、少女の細い血管に突き刺さる。小さな体には不釣合いな量の薬が流し込まれる。暴れる少女を押さえつける医師たちにも、焦りの表情が見える。
少女は、しばらくの間暴れていたが、薬が効いてきたのか、少しずつ落ち着きを取り戻していった。少女の呼吸が、安らかになってくる。やがて、疲れたのか、眠りについたようだ。
医師たちの間にも、安堵の溜め息が広がる。しかし、
「ふぅ……前回あったのは、確か、三日前だったか?」
「はい……そうですね」
看護師が、カルテを見ながら答える。
「間隔が短過ぎる……このまま続くようだと……難しいかもしれんな」
医師の言葉は、少女の先が長くないことを物語っていた。
――――――――――
医師たちが病室を後にすると、静寂が戻ってきた。一時的に見せた少女の苦しみの表情も、今となっては夢のようだ。
しかし、最後の医師の言葉が重く圧し掛かる。
「ねえ、すもも。こんなのはどうかな?」
「え?……………………うん!」
秋姫は、俺の案に二つ返事で同意する。
そして、明日の準備が始まった。題して、
……秋姫のネーミングセンスは、半端ではなかった。
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目次
ななついろ★ドロップス 短編
〜「さくらいろのほしぞらのしたで」〜
・「プロローグ」
・第01回「ずっといっしょ……」
・第02回「そのであいは、ゆうきのはじまり」
・第03回「なでしこのことば」
・第04回「わらいごえは、そらのかなた」
・第05回「ふたりのてのひら」
・第06回「ボクがきえるひ」
・第07回「にびいろのしずく」
・第08回「せいしろうとぼく」
・第09回「さくらいろのほしぞらのしたで」
・「エピローグ」
・あとがき
冗談企画
〜「オー!ユッキー」〜
・「オー!ユッキー その3」
・「オー!ユッキー その2」
・「オー!ユッキー その1」
ななついろ★ドロップス Short Story
〜「ユキちゃんの一日」〜
・「ユキちゃんの一日」
・「ユキちゃんの一日 その2」
・「ユキちゃんの一日 その3」
・「ユキちゃんの一日 その4」
・「ユキちゃんの一日 その5」
・「ユキちゃんの一日 その6」
ななついろ★ドロップス 短編
〜第5.5話「キミにむけるほほえみ」〜
・はじめに
・第01回「はじまり」
・第02回「たいへんたいへん」
・第03回「すもものムチャ」
・第04回「ふたりといっぴき」
・第05回「ほしのはな」
・第06回「すもものなみだ」
・第07回「りべんじ」
・第08回「ここはどこ?」
・第09回「ほしぞらのしたで……」
・第10回「さかないの?」
・第11回「みんなのねがい」
・最終回「キミにむけるほほえみ」
・あとがき
