2007年06月03日

第05回「ほしのはな」

ななついろ★ドロップス Short Story
〜第5.5話「キミにむけるほほえみ」〜
 
第05回 「ほしのはな」
 
 
 昼休みになると、結城は、険しい顔をしながら秋姫の席にやってきた。
「秋姫さん。鞄の中のひつじのぬいぐるみ。少し、貸していただけますか?」
「え? ユキちゃんを? えっと……」
 秋姫は、鞄を開け、俺に耳打ちをする。
「(結城さんが、ユキちゃんに用事があるみたいだけど……いい?)」
「(うん)」
 今朝の結城の様子が気になっていた俺は、迷わずに頷いた。すると、秋姫は、俺を結城に差し出す。
「はい」
「ありがとうございます。すぐにお返しします」
 結城は、俺を抱くと、そのまま教室を後にする。如月先生の所かな?
 
 ――――――――――
 
「如月先生」
 ノックも無しに、結城が部屋に入る。
「うわぁ〜! って、結城さん? ノックぐらいしてくださいよ……」
「それどころではありません。これを……」
 と、俺を差し出す結城。俺は、これ扱いか……
「っ! つ、石蕗君!?」
 如月先生の顔色が変わる。驚かれるようなことをした覚えはないのだが……
「あの……結城も如月先生も、突然どうしたんですか?」
「石蕗君。昨日の夜から、このままなのですか?」
「はい。そうですけど。でも、満月の日は一日このままですよ。いつものことじゃないですか」
「満月は、明日です」
 俺は、結城の言葉を理解するのに、数秒かかった。
「…………明日?……えと……なんでボクは、今日、このままなんですか?」
「そうですね……昨日の今日ですから……今のあなたの体が、元の体に戻るのを拒否しているのかもしれません」
「……はあ」
 思わず、間の抜けた返事をしてしまう。
「……でも、ボク、元に戻りたくないなんて思ってませんよ?」
「そうですね。戻りたくないのは、『心』ではなく『体』でしょうから……」
「ようするに、あなたの『本当の体』が危険な状態にあるということです」
 しびれを切らした結城が、口を挟む。危険って……
「えっと……それって、元の姿に戻ったら、ものすごーーーく痛いってこと?」
「そうね。運が良ければ、痛いだけでしょう。でも、あなたの様子からすると……死んでしまうかもしれないわ」
 死ぬ?
「石蕗君、よく聴いてください。死ぬと決まった訳ではありません。現にあなたは生きて喋っていますし、まだ大丈夫です。ただ、余りいい状況ではないことも確かです」
 結城が、如月先生の言葉にうなずく。
「まず、元の体がどうなっているか調べる必要があります。えーっと、調べるには、星のしずくが必要ですね。石蕗君。秋姫さんに……」
 如月先生の言葉をさえぎるように、結城が、小さな瓶を差し出す。
「結城、それ……」
「結城さん。いいんですか?」
「かまいません。別に使い道があるわけでもありませんから」
「ありがとうございます。結城さん。では、ほんの少しだけお借りします」
 そういうと、如月先生は、薬を作り始めた。俺は、結城に向き直り、
「結城。ありがとう」
「いいえ。大したことではありません」
 お礼を言われるのに慣れていないのか、結城は、目を逸らしながら答える。
(ありがとう)
 俺は、心の中で、もう一度呟いた。
 
 ――――――――――
 
 しばらく待つと、如月先生が戻ってくる。手には、緑色の湯気が立ち上る湯飲みが見える。
「お待たせしました。石蕗君。これを飲んでみてください」
 如月先生の微笑みが、悪魔の微笑みに見える。
「あの……如月先生……なんか、湯気の色がおかしい気が……」
「え? そうですか? う〜ん。普通だと思いますが……」
 いいえ。色が付いた湯気なんて見たことありません。
「まあまあ、そう言わずに。ささ。ぐいっと」
 如月先生に湯飲みを押し付けられる。中を覗いてみると、以外にも透明だった。匂いもないようだ。
 俺は、意を決して口をつけると、一気に飲み干した。
「んく……んく…………ふぅ……」
「石蕗くん。どうですか?」
「はい……ぁ……ァレ?」
 突然、意識が遠くなった。
 
 ――――――――――
 
「ユキちゃん! ユキちゃん!」
「ん……あれ? すもも?」
 目を覚ますと、ベッドの上に横たわっていた。秋姫が、心配そうに俺を覗き込んでいる。
「ユキちゃん! よかった……」
 秋姫に抱きかかえられる。薬を飲んだところまでは覚えているのだが……
「薬を飲んだとたんに倒れたのよ。そうとう酷いようね」
 やはり、緑色の湯気は、まずかったのだろうか?
「いいえ。薬自体は、無害よ」
 ということは……
「はい……ハッキリ言って、芳しくありません。いきなり倒れるとは思いませんでした。このままだと、少しまずいですね……」
「ユキちゃん、どうかしたんですか?」
 秋姫が、心配そうな声を上げる。
「あ。えっと……ね。ボク、ぬいぐるみの国にしばらく帰ってないから、ちょっと調子が悪いというか……」
 俺の作り話に、如月先生が合わせる。
「ユキちゃんはですね。余り長く国を離れすぎると、ぬいぐるみの国特有の病気になってしまうんですよ。今はまだ、足音が一つ多く聞こえる程度のようですが、そのうち枕元に人が立っているように感じたり、耳元で永遠と謝罪の言葉を繰り返されたり、血管から蛆が沸いてくる気がするようになり、最後には自分の首を掻き毟って死んでしまうんです! 嗚呼!! なんてかわいそうなユキちゃん!!!」
 
 カナカナカナカナ―
 
「……」
「……」
「……ひっ」
 秋姫だけは信じているのか、少し怯えた様子を見せている。
「はぁ……そうだったんですか……って、何の話ですか!!!」
「あははは。すみません」
 ハァ……俺が、大きな溜め息を吐くと、如月先生が、真面目な顔に戻って話を続ける。
「ゴホン。そうですね。このままにしておくと、ずっと眠ったままになってしまう可能性が高いと言わざるを得ません」
「眠ったまま……ですか?」
「はい。人間で言う、植物人間……ユキちゃんの場合は、本当にぬいぐるみになってしまうと言った方がわかりやすいでしょうか」
 元の姿に戻ると、本当に死んでしまうから、戻らないで眠りにつくということか……
「あの……どうすれば、ユキちゃんは助かるんですか?」
 先ほどの如月先生の言葉のままにはならないとわかって気を取り直したのか、今度は、秋姫が問いかける。
「そうですね……星のしずくが7つあれば、薬を作ることも出来るんですが……まだ、集まってませんよね……」
 仮に集まっていたとしても、元の姿に戻るのに、もう一度、一からやり直しになってしまう。
「他には、『星の花』があれば、何とかなるのですが……」
 星の花? 初めて聞く名前だ。
「すもも。星の花なんていう花があるの?」
「うーん。星の形をしたお花なら、いくつかあるけど……星の花っていう名前のお花は、聞いたこと無いかも……」
「そうですね。星の花は、レトロシェーナの花ではありません。フィグラーレから降り注いだ『星の種』に『虹のしずく』を与えると咲く、非常に珍しい花なんです」
 星の種に、虹のしずく? これも、初めて聞く名前だ。でも、虹のしずくか……もしかすると、昨日見た、あのしずくのことだろうか?
「あの、その虹のしずくって、動くと虹が出来たりする星のしずくのことですか?」
「え……あ、はい。そうです。よく知っていましたね」
「ええ。昨日、星のしずくをすくいに行った時に見たんです」
 如月先生と結城が顔を見合わせる。
「それで、その虹のしずく、どうしたんですか?」
「えっと……」
 しまった! 秋姫……
「ごめんなさい! わたし、すくうの失敗して……」
「すもも……ほら、昨日は、熱があったんだし、仕方ないよ」
 秋姫は、俺の言葉にも肩を落としたままだ。すると、今度は結城が秋姫に声をかける。
「秋姫さん。心配要りません。虹のしずくは、星のしずくと違って、数時間で消えたりしません。次の満月の日が終わるまでなら、また現れます。昨日、消えたように見えたのは、しずくが光るのを止めただけだったのではなくて?」
 そういえば、帰り際に、少し光ったような気がしたのを思い出した。
「そうですね。恐らく、昨日と同じくらいの時間にその場所に行けば、今夜も現れるでしょう」
「ユキちゃん! わたし、今日こそがんばるよ!」
 如月先生と結城の言葉に希望を見出したか、秋姫が、「がんばる」と繰り返す。
 あれ? でも……
「あの……虹のしずくはいいですけど、星の種って……」
「ああ。種の方ですか? 星の種は、虹のしずくと一緒に降り注ぎます。虹のしずくに反応して光るはずですから、近くを探せば見つかると思いますよ」
 どうやら、探すのは難しくないようだ。
「それでは、秋姫さん。ユキちゃん。頑張ってください」
「はい!」
 秋姫は、俺を抱きかかえると、如月先生の部屋を後にした。
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目次

ななついろ★ドロップス 短編
〜「さくらいろのほしぞらのしたで」〜
  ・「プロローグ」
  ・第01回「ずっといっしょ……」
  ・第02回「そのであいは、ゆうきのはじまり」
  ・第03回「なでしこのことば」
  ・第04回「わらいごえは、そらのかなた」
  ・第05回「ふたりのてのひら」
  ・第06回「ボクがきえるひ」
  ・第07回「にびいろのしずく」
  ・第08回「せいしろうとぼく」
  ・第09回「さくらいろのほしぞらのしたで」
  ・「エピローグ」
  ・あとがき

冗談企画
〜「オー!ユッキー」〜
  ・「オー!ユッキー その3」
  ・「オー!ユッキー その2」
  ・「オー!ユッキー その1」

ななついろ★ドロップス Short Story
〜「ユキちゃんの一日」〜
  ・「ユキちゃんの一日」
  ・「ユキちゃんの一日 その2」
  ・「ユキちゃんの一日 その3」
  ・「ユキちゃんの一日 その4」
  ・「ユキちゃんの一日 その5」
  ・「ユキちゃんの一日 その6」

ななついろ★ドロップス 短編
〜第5.5話「キミにむけるほほえみ」〜
  ・はじめに
  ・第01回「はじまり」
  ・第02回「たいへんたいへん」
  ・第03回「すもものムチャ」
  ・第04回「ふたりといっぴき」
  ・第05回「ほしのはな」
  ・第06回「すもものなみだ」
  ・第07回「りべんじ」
  ・第08回「ここはどこ?」
  ・第09回「ほしぞらのしたで……」
  ・第10回「さかないの?」
  ・第11回「みんなのねがい」
  ・最終回「キミにむけるほほえみ」
  ・あとがき