2007年06月03日

第04回「ふたりといっぴき」

ななついろ★ドロップス Short Story
〜第5.5話「キミにむけるほほえみ」〜
 
第04回 「ふたりといっぴき」
 
 
「ユキちゃん……」
「ん?」
 目が覚めると、目の前に秋姫の顔があった。窓から射す光りが眩しい。今は……朝!?
「あ……すも……じゃない、秋姫。 これはだな……えっと……」
「どうしたの? ユキちゃん? 『秋姫』なんて呼び方して?」
「……ゑ?」
 よく見ると、俺は、秋姫の手の中にいた。体を触ると、ぬいぐるみのままだ。昨日は、そのまま寝てしまったのか。変わっていない自分の体にホッとしたのは、初めてかもしれない。少し違和感があるが、今日は、満月だったようだ。
 
 スッ―
 
 襖が開く音が聞こえた。八重野が顔を覗かせる。
「すもも。おはよう。よく眠れた? あれ? ひつじ君? 今日は、帰らなくてもいいの?」
 俺の姿に、八重野も少し驚いた顔を見せる。
「あ……ちょっと、すもものことが心配で……これから帰ろうかなと……」
「ユキちゃん、帰っちゃうの!?」
 秋姫は、とても寂しそうな瞳で見つめてくる。
「ひつじ君。よかったら、今日一日、すもものそばにいてあげてくれないかな?」
 八重野も、秋姫に加勢する。
「あの…………えーっと………はい……」
 特別、断る理由もないか。たまには、一日、秋姫のそばにいるのもいいかもしれない。
「わーい! 今日は、ユキちゃんと一緒だぁ♪」
 秋姫は、とても喜んでくれているようだ。……それなら、いいか。
「それで、すもも。気分はどう?」
 八重野が話を変えて、秋姫の体調を気遣う。
「うん。すっごくいいよ。もう大丈夫。ありがとう。ナコちゃん」
「そう。それならよかった。でも、今日は、休んだ方がいい。私は学校に行くけど、すももは、好きにして。歩けそうなら、帰ってもいいし、しばらくここにいてくれても構わない」
「待って! わたしも行く!」
 秋姫の声が響き渡る。
「すもも?」
「あ……あの……石蕗くん、わたしの所為で、怪我させちゃったし……どうしているか、心配だから……」
「それなら、私が聞いてすぐに連絡する」
「そうだよ、すもも。昨日、倒れたんだから、少し安静にしてないと」
「ううん。それはダメ。石蕗くんに、ちゃんと謝らなくちゃ……」
「でも……」
 『来てないと思うよ』と続けようとして、言葉を飲み込む。それじゃあ、俺が重症みたいじゃないか……
 言葉を詰まらせる俺に、秋姫が続ける。
「それにね。ユキちゃんがいれば、石蕗くんと、ちゃんとお話し出来る気がするの。……だからね。お願い。ユキちゃん!」
「あ……うん……」
 そんな秋姫の言葉に、俺と八重野はうなずくしかなかった。
 
 ――――――――――
 
 結局、俺たちは、三人で登校することになった。
 ちなみに、俺は、秋姫の鞄の中だ。鞄の隙間から吹き込む風と、差し込む朝日が心地いい。外を覗くと、いつもより目線の低い通学路が見える。全ての景色が大きく感じられる。そんな眺めも新鮮だ。
「ユキちゃん、大丈夫? 苦しくない?」
「うん。意外と居心地いいよ」
 少し狭いけれど、秋姫の歩くペースで揺れる鞄は、揺りかごのようだ。
 校門に着くと、見慣れた面々が、揃って手を振っている。
「スモモちゃん! 八重野さん!」
「おはよう!」
「おーはーよー」
「はよっす」
 深道、小岩井、雨森に圭介。いつもの面々だ。
「おはよう」
「おはよう」
 秋姫と八重野も、挨拶を返す。
「すももちゃん、体調はもういいの? 石蕗くんと一緒に階段から落ちたって聞いたけど……怪我とかない?」
 小岩井の心配そうな声が、鞄の中に木霊する。
「うん。わたしは、大丈夫……それより、石蕗くん、どうしてるか、わかるかな?」
 そんな秋姫の問いに、圭介が答える。
「ハルなー。昨日、オレたちも、保健室行ったんだけどさ。如月先生が、まだ寝てるからって、入れてくれなくて。夜、麻宮とあいつの部屋に行ってみたんだけど、返事が無くてさ。まあ、寝てただけだとは思うけど」
「そう……なんだ……」
「まあ、教室に行けば居るかもしれないし、とりあえず行ってみようぜ」
「そうだね。とりあえず、行ってみようよ」
 圭介と深道を先頭に、揃って教室に向かい、歩き始めた。
 
 ――――――――――
 
 教室に着くと、みんな一斉に教室を見渡す。当然、俺の姿は無い。
「あー。なんだ。秋姫さん。昨日の今日だし、少し遅れてるだけだよ。少し待とう」
「うん……ありがとう。桜庭くん」
(バカ圭介! スモモちゃん、元気無くなっちゃったじゃない!)
(そんなこといったって……)
(どうして、石蕗連れて一緒に来なかったのよ!)
(いやー。部屋には行ってみたんだよ。でも、やっぱり返事が無かったから……先に行ってるかなと……)
(はぁ……もういいわ)
 深道が、圭介を責める声が聞こえてくる。ごめん。圭介。
 そこへ、担任の教師が入ってきた。まだ、ホームルームが始まるには早い時間だが……
「少し早いが、みんな席に着け」
 思い思いに散っていたクラスメイト達が、一斉に席に着く。
「あー。知っている者もいると思うが、昨日、秋姫と石蕗が階段から落ちた」
 端的に事実のみを語る担任の言葉に、教室がざわめきだす。
「あー。静かに。それで、秋姫は来ているようだな。調子はどうだ?」
「あ……はい。わたしは、大丈夫です」
「そうか。それならよかった。もし、調子が悪くなったりしたら、遠慮なく言うように。他の先生達にも伝えてあるからな」
「はい。ありがとうございます。あの……それで、石蕗くんは……」
「ああ。如月先生から連絡があってな。昨日の時点では、特に異常は見られなかったそうだ。ただ、打ったのが頭だったようでな。念のため、今日は、精密検査を受けに病院に行くとのことだ」
 そういえば、俺、病院に行くことになってたんだな。明日、行っておいたほうがいいのだろうか? 後で如月先生に相談してみよう。
 ふと、秋姫の様子が気になり、鞄の中から顔を覗いてみる。昨日の時点で、俺に異常が無かったことを聞いて、少し安心したようではあるが、精密検査という言葉が重かったのか、表情は硬いままだ。
「(すもも)」
 秋姫に、小声で話しかける。
「(どうしたの? ユキちゃん?)」
「(石蕗くん。きっと、大丈夫だよ)」
 俺の言葉が意外だったのか、秋姫は、少し驚いた表情を見せると、
「(うん。ありがとう。ユキちゃん)」
 やわらかく微笑んでくれた。
 俺は、鞄の中に戻ると、もう一つの隙間から教室を見渡した。
 ふと、結城と目が合う。結城は、驚いたように目を円くしてこちらを見つめている。
「? 結城? ホームルーム中だぞ。何か見えるか?」
「あ……いえ。何でもありません。申し訳ありませんでした」
「余り、ボーっとするなよ。では、続けるが―」
 そんな結城の表情が気になった。
posted by はっぱ at 00:18| Comment(0) | TrackBack(0) | SS
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目次

ななついろ★ドロップス 短編
〜「さくらいろのほしぞらのしたで」〜
  ・「プロローグ」
  ・第01回「ずっといっしょ……」
  ・第02回「そのであいは、ゆうきのはじまり」
  ・第03回「なでしこのことば」
  ・第04回「わらいごえは、そらのかなた」
  ・第05回「ふたりのてのひら」
  ・第06回「ボクがきえるひ」
  ・第07回「にびいろのしずく」
  ・第08回「せいしろうとぼく」
  ・第09回「さくらいろのほしぞらのしたで」
  ・「エピローグ」
  ・あとがき

冗談企画
〜「オー!ユッキー」〜
  ・「オー!ユッキー その3」
  ・「オー!ユッキー その2」
  ・「オー!ユッキー その1」

ななついろ★ドロップス Short Story
〜「ユキちゃんの一日」〜
  ・「ユキちゃんの一日」
  ・「ユキちゃんの一日 その2」
  ・「ユキちゃんの一日 その3」
  ・「ユキちゃんの一日 その4」
  ・「ユキちゃんの一日 その5」
  ・「ユキちゃんの一日 その6」

ななついろ★ドロップス 短編
〜第5.5話「キミにむけるほほえみ」〜
  ・はじめに
  ・第01回「はじまり」
  ・第02回「たいへんたいへん」
  ・第03回「すもものムチャ」
  ・第04回「ふたりといっぴき」
  ・第05回「ほしのはな」
  ・第06回「すもものなみだ」
  ・第07回「りべんじ」
  ・第08回「ここはどこ?」
  ・第09回「ほしぞらのしたで……」
  ・第10回「さかないの?」
  ・第11回「みんなのねがい」
  ・最終回「キミにむけるほほえみ」
  ・あとがき