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2008年01月19日

「ユキちゃんの一日 その7」

ななついろ★ドロップス Short Story
〜「ユキちゃんの一日 その7」〜
 
「ねぇ。ユキちゃん」
 すももちゃんは、珍しく真剣な顔でユキちゃんさんに話しかけました。
「どうしたの?すもも。そんな顔して?」
 ユキちゃんさんは、少し心配そうです。
「あのね……わたし、お料理してみようと思うの!」
「…………」
 ユキちゃんさんが、氷つきました。
「ユキ……ちゃん……?」
「あ……うん。えっと……」
 ユキちゃんさんは、大量の汗を噴出しながら、言いよどんでしまいました。
 ユキちゃんさんの様子を見たすももちゃんは、少し悲しそうな顔になり、
「やっぱり、わたしじゃダメなのかな? 可愛いエプロン……買ったんだけどな……」
「すもも。自信を持つんだ。大丈夫。頑張り屋のすももなら、(きっと)なんとかなるさ!」
 ユキちゃんさんは、欲望に負けたようです。
「ホント!? それじゃあ、ユキちゃん。お手伝いしてくれるかな?」
「ああ。もちろんさ!」
「それじゃあ、お台所、いこっ」
 こうして、二人は、台所(戦場)へと向かいました。
 
 ――――――――――
 
 台所に着いたすももちゃんは、可愛らしい羊のプリントが所狭しと並んだエプロンを身に着けると、ユキちゃんさんに聞きました。
「ユキちゃん。ナニがいい?」
「はだエプ」
 ユキちゃんさんは、何を勘違いしたのか、男の夢を語ってしまいました。
 すると、すももちゃんは、リンゴを握り潰せる程度の握力でユキちゃんさんの首を掴むと、聖母のような微笑みを浮かべながら、
「ユキちゃん。ナニがいい?」
「す……すもも……あ……が……」
 ユキちゃんさんは、少し呼吸困難です。
 その時、どこからともなく、子猫のように愛らしい声が響き渡りました。
「すももさん! ユキちゃんいぢめちゃ、いけません!」
 その声に、すももちゃんは、辺りを見渡しました。しかし、声はすれど、姿が見あたりません。
「???どちら様ですか???」
 すももちゃんが問いかけると、力ある言葉が辺りを包みました。
「プログリーディア!」
 すると、台所の引き戸が光り始めました。ほどなくして、光の中から、小さな人影が見えてきました。
「ユキちゃんをいぢめるような人は、星に変わってお仕置きです!」
 どこかで見たことのあるポーズをとった女の子の姿が見えてきました。
「おしおきです」
 続いて、額に月のマーク宿したクロワさんも見えてきました。
「あ! ユーリちゃんにクロワさん。いらっしゃい」
 すももちゃんは、温かい笑顔でユーリちゃんを迎えました。
「えへへ。お邪魔します!」
「お邪魔いたします」
 二人は、何事もなかったかのように挨拶を交しました。
 ちなみに、ユキちゃんさんの首は、すももちゃんの小指ほどの太さにまで圧縮されています。
「久しぶりだね。ユーリちゃん。元気だった?」
「はい! すももさんこそ、ハルくんとは、いかがですか?」
「え? どう?って……その……」
 すももちゃんは、茹でたトマトのように赤くなって、ユキちゃんさんを振り回しました。
 そんなユキちゃんさんを不憫に思ったのか、クロワさんは、言いました。
「すもも様。そろそろ、ユキちゃん様が、限界かと……」
 ユキちゃんさんの首は、そろそろ取れそうです。
「あ! ユキちゃん。ごめんなさい」
 ユキちゃんさんは、なんとか生還出来たようです。
「ところで、すももさん。そのエプロン、とーーーーっても、可愛いですね。これからお料理ですか?」
「ありがとう。ユーリちゃん。うん。これから、ナニか作ろうと思って。ユーリちゃんも、一緒にやる?」
「いいんですか!? わはぁっ。ぜひ、お願いします!」
 突如、お料理大会が勃発したようです。
「ねぇ。クロワも、やろう?」
 ユーリちゃんが、クロワさんを誘いました。しかし、クロワさんは、
「いえ。私は、遠慮いたします。きっと、お二人で作った方が、ユキちゃん様も、嬉しいことでしょうし」
「えっ? ボク? ボクは別に……」
 ユキちゃんさんは、少し赤くなって俯きました。
 クロワさんは、歪んだポーカーフェイスを浮かべています。
「そうですか。それじゃあ、ユーリちゃん。二人でやりましょうか?」
「はい!」
 ユーリちゃんの満面の笑顔に、全国のお兄ちゃんたちは、メロメロです。
「えっと……ユキちゃん、ナニが食べたい?」
「うーんと…………そうだ! すももコロッケが食べたいな」
 ユーリちゃんは、呆れ顔で、
「ユキちゃん。それ、キャラクターが違わない?」
 と、少し引き気味です。
 対して、すももちゃんは、
「すもも……コロッケ? ユキちゃん、そんなの食べたいの?」
 と、不思議そうな顔をしています。
「すもも様。よろしいのではないでしょうか? ユキちゃん様が食べたいと仰っておりますし。コロッケなら、お料理の練習にもよろしいかと」
 クロワさんには、特に異論はないようです。
「……はい……わかりました。それじゃあ、挑戦してみますね!」
 すももちゃんは、やる気が出てきたようです。
「あっ! すもも!」
 ユキちゃんさんが、すももちゃんを呼び止めました。
「どうしたの? ユキちゃん」
「うん。えっとね。コロッケの形なんだけど……ハート形は、ダメだからね」
「…………」
 すももちゃんの笑顔が固まりました。
「…………」
 ユーリちゃんは、手に持っていたものを落としてしまいました。
「……あの……すももさん……ユキちゃんって、もしかして、一割読者なんですか?」
「ごめんなさい、ユーリちゃん。この前、ハル君に、4巻貸しちゃったかも……」
 ユーリちゃんは、少し残念そうに、
「そういうことですか……それなら、仕方がありませんね……」
「うん。ごめんね。でも、ユーリちゃん。マツタケとひじきは、ちょっとリアル過ぎるんじゃないかな?」
「えっ?……あっ!……たまたま……そう! たまたまですわよ!」
 ユーリちゃんの透き通るような緑色の瞳が空を泳いでいます。
 そんな困り笑いを浮かべるユーリちゃんを愛でて満足したのか、すももちゃんは、気を取り直したようです。
「それじゃあ、ユキちゃん。クロワさん。わたしたち、お料理を始めます。ユキちゃんも、クロワさんも、絶対に、覗いちゃダメですよ?」
「うん。わかった。絶対に覗かないよ」
「承知いたしました」
 と、すももちゃんは、台所の引き戸を閉めてしまいました。
「……クロワさん」
「何でしょう?」
「任せて、大丈夫だったんですか?」
「いいえ。ダメだと思います」
「えっ? それじゃあ、どうして手伝わなかったんですか?」
「食べるのは、私ではございませんので」
「…………クロワさん。ボクに、何か、恨みでもあります?」
「………………………………………いいえ」
「……そうですか……」
「はい」
 ユキちゃんさんは、諦めて、おとなしく待つことにしました。
 
 ――――――――――
 
「ユキちゃん! クロワさん! 出来ました!」
 すももちゃんは、中華料理屋さんの回るテーブルの真ん中に置いてもはみ出そうなくらい大きなお皿にてんこ盛りのコロッケを持ってやってきました。
 途中、「ユーリちゃん。やかんにお水入れた?」とか、「すももさん。それ、バターじゃなくて、塩ですよ?」とか、「ユーリちゃん! 燃えてるよ!」とか、「ティム・フォールナ・プリンシパトゥ」とか、聞こえていた割には、見た目、焦げているような所も見当たらず、とてもいいにおいがしています。
「あれ? ユーリは?」
「うん。疲れて、寝ちゃったみたい」
 ユキちゃんさんが、台所に目を向けると、少し焦げ目のついた足が覗いています。
「すもも……ユーリ、ちょっと、炭化してない?」
「うん。ちょっとね……あれ? クロワさんは?」
「うん。さっき、突然、アスパラさんが来て、連れて行かれちゃったんだ。即売会が何とかって言ってたけど……やけに慌ててたよ」
 それを聞いたすももちゃんは、慌てて携帯を取り出して、どこかに電話をかけ始めました。
「あ! ノナちゃん?」
 どうやら、お相手は、アスパラさんのようです。
「……あのサークルって……うんうん。まだ、大丈夫そう?……わかった、今から行く」
 すももちゃんは、手短に用件済ませると、
「ユキちゃん。ごめんなさい。急用が出来たから、行ってくる」
「うん。気をつけてね」
「行ってきます!……スピリオ・ローザ・ブロッサム!」
 すももちゃんは、いつもの制服に身を包むと、
「アラ・ディウム・メイ!」
 光の翼を生やしました。さらに、
「ティム・フォールナ・メイ!」
 周りの時間を遅くすると、あっという間に見えなくなってしまいました。
「いってらっしゃーい」
 ユキちゃんさんは、すももちゃんの後姿に小さく手を振ると、背後のコロッケの山を見上げました。
「ずいぶんたくさん作ったな……」
 そう呟くと、その山から一つ、一番小さなコロッケを掴みました。
「いただきます……はむ…………ん? 甘酸っぱい?」
 コロッケの中を見ると、何故か、毒々しい赤色をしています。どうやら、すももちゃんは、駄菓子のすもも漬けをコロッケにしたようです。
「……すもも……コロッケ……か……」
 ユキちゃんさんは、無表情に、次のコロッケに手を伸ばしました。どうやら、ユキちゃんさんには、好評だったようです。
 
Fin
posted by はっぱ at 23:29| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

目次

ななついろ★ドロップス 短編
〜「さくらいろのほしぞらのしたで」〜
  ・「プロローグ」
  ・第01回「ずっといっしょ……」
  ・第02回「そのであいは、ゆうきのはじまり」
  ・第03回「なでしこのことば」
  ・第04回「わらいごえは、そらのかなた」
  ・第05回「ふたりのてのひら」
  ・第06回「ボクがきえるひ」
  ・第07回「にびいろのしずく」
  ・第08回「せいしろうとぼく」
  ・第09回「さくらいろのほしぞらのしたで」
  ・「エピローグ」
  ・あとがき

冗談企画
〜「オー!ユッキー」〜
  ・「オー!ユッキー その3」
  ・「オー!ユッキー その2」
  ・「オー!ユッキー その1」

ななついろ★ドロップス Short Story
〜「ユキちゃんの一日」〜
  ・「ユキちゃんの一日」
  ・「ユキちゃんの一日 その2」
  ・「ユキちゃんの一日 その3」
  ・「ユキちゃんの一日 その4」
  ・「ユキちゃんの一日 その5」
  ・「ユキちゃんの一日 その6」

ななついろ★ドロップス 短編
〜第5.5話「キミにむけるほほえみ」〜
  ・はじめに
  ・第01回「はじまり」
  ・第02回「たいへんたいへん」
  ・第03回「すもものムチャ」
  ・第04回「ふたりといっぴき」
  ・第05回「ほしのはな」
  ・第06回「すもものなみだ」
  ・第07回「りべんじ」
  ・第08回「ここはどこ?」
  ・第09回「ほしぞらのしたで……」
  ・第10回「さかないの?」
  ・第11回「みんなのねがい」
  ・最終回「キミにむけるほほえみ」
  ・あとがき