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2007年07月14日
「ユキちゃんの一日 その6」
〜「ユキちゃんの一日 その6」〜
「ユキちゃん。今日は、お月様が、綺麗だよ……」
すももちゃんは、頬杖をつきながら、窓から見える真ん丸お月様を見上げています。
「ほんとだ。今日は、お月見が出来そうだね…………ねぇ、すもも。月見団子とかあると、いい感じだと思わない?」
「うん。思わない」
即答でした。
「それは、残念……」
ユキちゃんさんも、期待していたわけではないのか、言葉だけで残念そうな顔をすることなく、諦めたようです。
ふと、月の光を、黒いものが遮りました。
「……あれ? すもも。なんか、こっちに向かってきてないか?」
よく見ると、何か、人の形をしたものが、こちらに向かって落下してきているようです。
「……うん……そうみたいだね」
そういうと、すももちゃんは、後ろにあるベッドを、10cmほど動かしました。すると、かすかに、声のようなものが聞こえてきました。
「だーれーかー! とーめーてーくーだーさーいー!」
助けを求めているようですが……
「…………」
「…………」
ユキちゃんさんとすももちゃんは、黙って成り行きを見守ることにしたようです。
「そ! そんなぁ!!!」
結局、減速することなく落下してきたその人は、そのまま窓から飛び込んでくると、ベッドの角に股間から突っ込みました。
ゴキビン!!!
聞いたことのない効果音が響きます。
「こ……この感覚は……天国への……片道切符…………」
その人は、全く意味のわからないことを呟いてから、ピクピクと痙攣しはじめました。
「すもも……ベッド動かしたのって、もしかして、このため?」
「だって、ベッドが壊れちゃうじゃない」
すももちゃんの答えに、落下してきた人が、プルプルと震えながら立ち上がりました。
「あ……秋姫さん……私の股間と秋姫さんのベッド、どちらが大切ですか……?」
「あれ? よく見たら、松田さんじゃないですか」
「ほんとだ。松田さんだったんですね。ぴゅあっす☆ でも、年頃の女の子の部屋に窓から不法侵入だなんて、見かけによらず、大胆ですね」
松田さんの質問は、スルーされたようです。
「あ……あの……私の質問は、どこへ……?」
「あれ? 答えて欲しいんですか?」
「いいえ。やめておきます……」
松田さんは、懸命でした。
「ところで松田さん。今日は、どうしたんですか? まさか、わたしを襲いにきたなんてことは、ありませんよね? 松田さんにそんな度胸があるとも思えませんし」
すももちゃんの浮かべる微笑みは、般若のようでした。松田さんは、震えながらも、必死に説明を始めます。
「あ……秋姫さん。お……落ち着いてください! 私は、お嬢様に頼まれものをされまして。それを届けに来たのです」
「ホントウニ?」
「はい! もちろん!」
「嘘だ!」
「ひぃぃぃぃ!!!」
松田さんの愛想笑いが、一瞬にして恐怖に変わりました。
「すもも。ベッドも無事だったことだし、そろそろ、許してあげたら?」
松田さんの、今にも漏らしそうな泣き顔に同情したのか、ユキちゃんさんがすももちゃんをなだめ始めました。
「しょうがないな……松田さん。ユキちゃんに、感謝しなきゃだめだよ? それで、結城さんから、何を預かってきたんですか?」
「あ! はいはい! これでございます」
と、松田さんは、一冊の薄っぺらい小冊子を差し出しました。すももちゃんは、それを受け取ると、早速、ページ目を開いてみます。中を見ると、どうやら、漫画になっているようです。ユキちゃんさんが横から覗くと、何故か、見たことのある顔が描かれていました。
「……あれ?……このキャラ、夏樹に似てるね……こっちのキャラは、ボ……石蕗くん?」
ユキちゃんさんは、本に描かれている自分の姿を、不思議そうに見守っています。すももちゃんが、ページをめくると……
「あ?……え!?……な、なんで、この二人、抱き合――――」
「ユキちゃんは、これ以上見ちゃダメ!!!!!」
すももちゃんは、ユキちゃんさんを右手で掴むと、振り上げた左足で真空を作り、その中にユキちゃんさんを投げ込みました。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ユキちゃんさんは、時速200kmで夜空に向かって舞い上がりました。
「ああ! ユキちゃんさん!」
その時、すももちゃんの指輪が光り始めました。
「あ……星のしずくだ……」
指輪の光は、丁度、ユキちゃんさんが飛んで行った方向を指しています。
「松田さん! レシピと星のしずくが入った瓶。持ってきてください!」
「え? あ! はい! これとこれ……ですね。それでは行きましょう……って、居ないし!」
すると、窓の下から、すももちゃんの声が聞こえてきました。
「松田さん! 早く、早く!」
「あ、秋姫さん! お待ちください!」
松田さんは、犬の姿になると、すももちゃんを追って走り始めました。
――――――――――
一方、ユキちゃんさんは、何故か速度を上げていました。そろそろ、音速にも達しようかというとき、一人の少女の凛とした声が響きました。
「フォム・プルーラス!」
ユキちゃんさんの前に、大きなクッションが現れました。ユキちゃんさんは、そのクッションに包まれ、何とか止まることが出来たようです。
「羊。何をしているの?」
そこにいたのは、箒に乗って冷たい視線を向けるアスパラさんでした。
「ア……アスパラス……ありがとう。このまま、地球を一周することになるかと思ったよ」
アスパラさんは、呆れたように、
「はぁ……まあ、いいわ。星のしずくが落ちてきたわよ。行きましょう」
「え? 本当?」
よく見ると、アスパラさんの指輪が光っています。
「ほら。早く、肩に捕まって」
「あ……うん」
ユキちゃんさんが肩に捕まります。
「悪いけど、これ、持っていてくださる?」
アーサーのやつ、どこにいったのかしら? と、毒づきながら、アスパラさんは、星のしずくの入った瓶をユキちゃんさんに渡しました。
そして、アスパラさんは、星のしずくの元へと飛んでいきました。
――――――――――
すももちゃんとアーサーさんが辿り着いたのは、公園にある大きな池でした。池の真ん中で、星のしずくがユラユラと光を放っています。
「スピリオ・ローザブロッサム!」
すももちゃんが、魔法服を瞬着しました。するとそこに、アスパラさんが現れました。
「お待ちなさい! プリマ・プラム! そこのしずくをかけて、勝負よ!」
「ふふふ……アスパラさん。今日は、負けないよ♪」
すももちゃんは、不敵な笑みを浮かべています。
「……っ!? な……なによ! 今日は、珍しく、自信があるようね……まあ、いいわ。ハッタリじゃ勝てないこと、教えてあげる! アラ・ディウム・メイ!」
アスパラさんは、お空を飛ぶ呪文を唱えて、星のしずくに向かっていきました。
「アラ・ディウム・メイ!」
すももちゃんも、負けじとお空に飛び立ちます。
すると、星のしずくが動き始めました。
「えい!」
アスパラさんのレードルが、星のしずくに向かって振り下ろされます。しかし、しずくは、スイスイとレードルを避けながら、水面に向かっていきます。今度は、すももちゃんが、しずくの動きに合わせてレードルを伸ばしました。
「それっ!」
星のしずくは、進行方向を90度変えて、すももちゃんの頬を掠めていきます。
「きゃっ!」
すももちゃんは、驚いてバランスを崩しました。
バシャン!
「すもも!」
ユキちゃんさんが、叫びます。しかし、
ザバァン!
すももちゃんは、すぐに水の中から出てきました。
「えへへ……落ちちゃった♪」
すももちゃんは、びしょ濡れでしたが、あまり気にした様子もありません。
「ふぅ……よかった……」
ユキちゃんさんが、安堵の溜息を吐きます。
「ふん! 気を抜いたわね! このしずくは、いただいたわ!」
すももちゃんが水から這い上がる間に、アスパラさんのレードルは、既にしずくを捕らえようとしていました。すももちゃんは、諦めることなく、しずくに向かいながら叫びました。
「アスパラさん! 『攻める』の反対は?」
「『受ける』に決まっているでしょう!…………っっっ!!!」
反射的に答えてしまったアスパラさんの動きが止まりました。その間に、すももちゃんが、アスパラさんを追い抜きます。
「プルヴ・ラディ!」
すももちゃんの言葉に、星のしずくが吸い寄せられました。
「ユキちゃん! しずくを入れる瓶!」
「うん!」
ユキちゃんさんは、自分の手の中にある瓶を、すももちゃんに投げました。
「ありがとう! よいしょっと……」
すももちゃんが、受け取った瓶の中に、星のしずくを入れて蓋をします。
「わーい! ユキちゃん! アスパラさんに勝ったよ!」
「あははは! すもも、すごいや!」
と、アスパラさんが、
「……あの……」
「ん? どうしたの? アスパラさん」
「……二つほど、言いたいことがあるのだけれど……」
「ふたつ? うん。なぁに?」
「えっとね。それ、アタシの瓶……」
……………………
微妙な沈黙の後、ギギギという効果音を伴って、すももちゃんの首が、ユキちゃんさんに向きました。
「ユキちゃん」
「あ……あれぇ?」
ユキちゃんさんは、目を逸らしつつ、ごまかしモードです。
「どうしたの? ユキちゃん? お目々逸らさないで?」
「ああ。うん。ごめんね、すもも。なんだか、今、すももの目を見ちゃいけない気がするんだ」
「ふーん。それは、残念…………それじゃあ、ユキちゃん。さようなら」
「さようならって、あれ? このロープ何? 先に付いてるタイヤ、どこから持ってきたの?」
すももちゃんは、ゆっくりと、池に向かってタイヤを転がし始めました。
「あっ! ちょっと? ねぇ! すもも? すもも様ぁ!!!」
ジャボーーーン!
ユキちゃんさんは、ゆっくりと水の中に沈んでいきました。
「あ……あなたたち、仲悪いの?」
「え? そんなことないよ? わたし、ユキちゃん、大好きだもん♪」
すももちゃんは、天然でした。
「それで、アスパラさん。もう一つ聞きたいことって?」
「ああ……ええ……そうだったわね……」
アスパラさんは、頬を染めながらいいました。
「プ……プリマ・プラムは……攻め派? それとも、受け派?」
アスパラさんの声が、少し裏返りました。
すももちゃんの頬も、赤く染まりました。
「う……うん……えっとね……ごにょごにょごにょ…………」
すももちゃんは、アスパラさんに、小さな声で耳打ちしました。アスパラさんの顔が、さらに赤みを増します。
「わ、わたし、言ったよ! アスパラさんは?」
「ええ……そうね。アタシは……ごしょごしょごしょ…………」
すももちゃんも、アスパラさんも、茹で蛸のようになってきました。
「アスパラさん」
「何ですか? プリマ・プラム」
「わたしたち、とってもいいオトモダチ(同志)になれると思うの。だからね。『ノナちゃん』って、呼んでもいい?」
「ええ。そうですわね。いいオトモダチ(同志)になれそうですわ。すもも!」
「もちろんだよ! ノナちゃん!」
二人は、固く手を握り合いました。
「ところで、すもも」
「なぁに? ノナちゃん?」
「羊、あのままでいいのかしら?」
「うん。『ヴィム・コミティ・アクア』の魔法、かけてあるから大丈夫」
「…………」
アスパラさんの頬に、一筋の汗が伝いました。
「……ねぇ、すもも……その魔法、唱えた本人が側にいないと意味ないって、知ってる?」
「え? そうなの?」
「ええ。そうよ」
すももちゃんの笑顔が、引きつり始めました。
「ふーん。そうなんだ」
「ええ。そうなのよ」
すももちゃんの笑顔に、涙が浮かび始めました。
「……ノナちゃん。まだ、大丈夫だと思う?」
「そうね。限りなくゼロに近いかもしれないけれど、ゼロじゃないと思うわ」
「うわぁぁぁーーーん!!! ユキちゃ〜〜〜〜〜ん!!!!!」
こうしてすももちゃんは、薄暗い池の中へと、ユキちゃん捜索の旅に出ることになったのでした。
更新履歴
2008-01-18:「ユキちゃんの一日 その7」
2007-08-22:ななついろ★ドロップス短編〜「さくらいろのほしぞらのしたで」〜
2007-07-21:「オー!ユッキー その3」
2007-07-14:「ユキちゃんの一日 その6」
2007-07-07:「オー!ユッキー その2」
2007-07-01:「オー!ユッキー その1」
2007-07-01:「ユキちゃんの一日 その5」
2007-06-21:「ユキちゃんの一日 その4」
目次
ななついろ★ドロップス 短編
〜「さくらいろのほしぞらのしたで」〜
・「プロローグ」
・第01回「ずっといっしょ……」
・第02回「そのであいは、ゆうきのはじまり」
・第03回「なでしこのことば」
・第04回「わらいごえは、そらのかなた」
・第05回「ふたりのてのひら」
・第06回「ボクがきえるひ」
・第07回「にびいろのしずく」
・第08回「せいしろうとぼく」
・第09回「さくらいろのほしぞらのしたで」
・「エピローグ」
・あとがき
冗談企画
〜「オー!ユッキー」〜
・「オー!ユッキー その3」
・「オー!ユッキー その2」
・「オー!ユッキー その1」
ななついろ★ドロップス Short Story
〜「ユキちゃんの一日」〜
・「ユキちゃんの一日」
・「ユキちゃんの一日 その2」
・「ユキちゃんの一日 その3」
・「ユキちゃんの一日 その4」
・「ユキちゃんの一日 その5」
・「ユキちゃんの一日 その6」
ななついろ★ドロップス 短編
〜第5.5話「キミにむけるほほえみ」〜
・はじめに
・第01回「はじまり」
・第02回「たいへんたいへん」
・第03回「すもものムチャ」
・第04回「ふたりといっぴき」
・第05回「ほしのはな」
・第06回「すもものなみだ」
・第07回「りべんじ」
・第08回「ここはどこ?」
・第09回「ほしぞらのしたで……」
・第10回「さかないの?」
・第11回「みんなのねがい」
・最終回「キミにむけるほほえみ」
・あとがき


