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2007年06月07日

「ユキちゃんの一日」

ななついろ★ドロップス Short Story
〜「ユキちゃんの一日」〜


 ユキちゃんさんの朝は、帰宅から始まります。
「……ユキちゃん……んん……おいで……」
 すももちゃんの声に振り返るユキちゃんさん。でも、すももちゃんの瞳は、しっかりと閉じられています。どうやら、寝言だったようです。
 ユキちゃんさんは安心すると、そっと窓を開けました。そろそろお日様が顔を出そうとしているのでしょうか? 夜を照らしていたお星様たちが、交代の準備を始めているようです。
「さてと。急がなくちゃ」
 ユキちゃんさんは、魔法の本に乗り、すももちゃんの家を飛び立ちます。チリンチリンというベルの音が聞こえてきました。目を向けると、新聞配達の男の子が自転車に乗って通り過ぎていくところでした。大変です。あの男の子がいるということは、後5分ぐらいで夜が明けてしまいます。ユキちゃんさんは、急いで寮へと戻るのでした。
 
 寮に着いたユキちゃんさんは、窓を開けてお部屋に入ります。ここのところ、窓の鍵は開けっぱなしになっています。少し無用心ですが、仕方ないですね。
 ユキちゃんさんが部屋に入ると、ホッと一息、窓辺に座り込みます。外を眺めると、丁度、お日様が顔を出したところでした。でも、今日は、元の姿に戻ることはありません。そう、今日は、満月なのです。
 ユキちゃんさんは、机の前に貼ってあるカレンダーに目を向けます。ぬいぐるみの姿になるようになってから買ってきたカレンダーです。月の満ち欠けが一目でわかるものを選んで買ってきました。その他にイラスト等はなく、とてもシンプルなカレンダーです。でも、世界中どこを探しても、ユキちゃんさんほど、このカレンダーを必要としているぬいぐるみはいないでしょうね。
 
 ぬいぐるみの姿のまま外を出歩く訳にもいかないユキちゃんさんは、一日お家の中で過ごすことになります。
「月に一度、学校が休めるなんて羨ましい!」
 と思う人もいるかもしれない。しかし、ユキちゃんさんは、この日を、「憂鬱な休日」と呼んでいます。
 何故かって? 考えてみてください。一日、ぬいぐるみの姿でいるのは、とても大変なことだとは思いませんか?
 
 ――――――――――
 
 ユキちゃんさんは、まず、お風呂に入ることにしたようです。そういえば、体が少し汚れています。
 ユキちゃんさんは、お風呂場のドアを、開け……開け…………
「開け〜!」
 ユキちゃんさんは、叫びながらドアを押してみましたが、ビクともしません。
「ふぅ……ふぅ……よし……」
 ユキちゃんさんは、ドアから離れると、助走を付けて……
 
 ドン!!!
 
 ドアに体当たり。
「……っ痛」
 しかし、ドアが開く気配はありません。
 ふと、ユキちゃんさんが、ドアを見上げています。ボー然と、何か考えているようです。
「このドア、引くんだっけ……」
 ユキちゃんさんがドアを引くと、なんと! 簡単に開くではありませんか。ぬいぐるみの姿では、勘も鈍ってしまうようですね。
 
 無事、お風呂場に足を踏み入れたユキちゃんさん。今度は、浴槽にお湯を張らなければなりません。蛇口まで辿り着くと、ユキちゃんさんは、蛇口を捻っ……捻っ…………
「出ろ〜!」
 
 グルン!!!
 
 勢いを付けすぎたのか、滝のようにお湯が流れ始めました。ユキちゃんさんは、蛇口を絞ります。そのとき、ユキちゃんさんは、あることに気が付きました。浴槽に栓をしていなかったのです。ユキちゃんさんは、栓の付いた鎖に手を伸ばします。
 
 うんしょ、うんしょ。
 
 鎖に手が届きました。引っ張ろうとすると、蛇口から流れるお湯と栓がぶつかり、ユキちゃんさんが引っ張られました。
「おわっ!」
 ユキちゃんさんは、見事に浴槽の下に落ちてしまいました。浴槽を登ろうと試みますが、ぬいぐるみの手では、どう考えても、凹凸の無い浴槽を登るのは不可能です。ユキちゃんさんは、諦めると、お湯が張るのを待つことにしました。
 
 10分後―
 
 お湯が張るには、まだまだ時間がかかりそうです。
 
 20分後―
 
 少しのぼせてきたようです。しかし、湯船は、まだ、半分にも達していません。
 
 40分後―
 
 ユキちゃんさんは、水面に浮かび、両手をお腹の上で組んだまま、目を開けてじっとしています。眠ってはいないようです。
 しかし、手を伸ばせば届くような気もするのですが……
 
 1時間後―
 
 浴槽からお湯が溢れ始めました。同時に、ユキちゃんさんも浴槽から溢れ出しました。どうやら、気絶していたようです。背中に当たる床の感触で目が覚めたのか、ユキちゃんさんは、ムックリと起き上がり、濡れたままお風呂場を後にしました。
 
 ユキちゃんさんは、部屋に戻ると、窓を開けました。吹き込む風が火照った体に心地いいのか、目を閉じて気持ちよさそうに座り込んでいます。
 そろそろお昼を回る頃なのか、お日様が真上に見えます。ぽかぽかな日の光と木々を揺らす穏やかな風に、だんだんと眠くなってきたのか、ユキちゃんさんは、目を閉じました……
 
 ――――――――――
 
 カサ……カサカサ……
 
 綺麗奇鈴な旋律戦慄を奏でるアイツは、突然現れました。ユキちゃんさんは、危険を感じたのか、急速に覚醒したようです。辺りを見渡すと、ソイツは、距離にして1mにも満たない所で、長い触角を忙しなく動かしていました。間違いありません。コードネーム『G』です。不気味にテカるその姿は、ユキちゃんさんの小さな体からは、化け物にしか見えません。
 蛇に睨まれた蛙のように、ユキちゃんさんは、身動き一つ出来ません。
 突然、コードネーム『G』が、その翼を開き、飛び立ちました。そして、ユキちゃんさん顔面に着陸します。ユキちゃんさんは、固まったまま、ピクリともしません。
 やがて、コードネーム『G』は、開いた窓からどこかへ旅立っていきました。
 ユキちゃんさんは、目を見開いたまま仰向けに倒れた後、突然立ち上がりました。すると……
 
「あははははは……ちょうちょ! ちょうちょだ〜」
 
 と、幻を追いかけて、はしゃぎ始めました。
 
 ――――――――――
 
 ユキちゃんさんが現実逃避を始めてから、何時間になるでしょうか。お日様も沈み、辺りは暗くなっています。ユキちゃんさんは、突然立ち止まると、
「……あれ? 俺、何やってたんだっけ?」
 どうやら、何が起こったのか、まるで覚えていないようです。
「しまった!? もう、こんな時間! 秋姫の所にいかなくちゃ」
 ユキちゃんさんは、本に乗り、今日もすももちゃんの家へと向かうのでした。
 
Fin
posted by はっぱ at 00:12| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

目次

ななついろ★ドロップス 短編
〜「さくらいろのほしぞらのしたで」〜
  ・「プロローグ」
  ・第01回「ずっといっしょ……」
  ・第02回「そのであいは、ゆうきのはじまり」
  ・第03回「なでしこのことば」
  ・第04回「わらいごえは、そらのかなた」
  ・第05回「ふたりのてのひら」
  ・第06回「ボクがきえるひ」
  ・第07回「にびいろのしずく」
  ・第08回「せいしろうとぼく」
  ・第09回「さくらいろのほしぞらのしたで」
  ・「エピローグ」
  ・あとがき

冗談企画
〜「オー!ユッキー」〜
  ・「オー!ユッキー その3」
  ・「オー!ユッキー その2」
  ・「オー!ユッキー その1」

ななついろ★ドロップス Short Story
〜「ユキちゃんの一日」〜
  ・「ユキちゃんの一日」
  ・「ユキちゃんの一日 その2」
  ・「ユキちゃんの一日 その3」
  ・「ユキちゃんの一日 その4」
  ・「ユキちゃんの一日 その5」
  ・「ユキちゃんの一日 その6」

ななついろ★ドロップス 短編
〜第5.5話「キミにむけるほほえみ」〜
  ・はじめに
  ・第01回「はじまり」
  ・第02回「たいへんたいへん」
  ・第03回「すもものムチャ」
  ・第04回「ふたりといっぴき」
  ・第05回「ほしのはな」
  ・第06回「すもものなみだ」
  ・第07回「りべんじ」
  ・第08回「ここはどこ?」
  ・第09回「ほしぞらのしたで……」
  ・第10回「さかないの?」
  ・第11回「みんなのねがい」
  ・最終回「キミにむけるほほえみ」
  ・あとがき